『ファヴェーラはファッション(原題:Favela é Moda)』を観て by MAKO

人は誰しも、生まれる場所を選ぶことはできない。 ブラジルのスラム街・ファヴェーラに生まれた人々もまた、自ら望んでその運命を選んだわけではない。 過酷な環境の中で生きることに苦しむのは、他に選択肢が与えられていないからなのだと、日々の暮らしからも、そして本作を通しても、強く感じている。
映画『Favela é Moda』の舞台は、ブラジル・リオデジャネイロ市北部(ゾナ・ノルチ)に位置するジャカレ地区である。 観光地として知られる南部地区(ゾナ・スール)とはまったく異なる環境の中で、若者たちは将来への希望を抱きながらも、自らが置かれた現実や、今なお続く差別の問題と向き合っている。
10月末に起こった、あってはならない悲しい出来事――「Complexo do Alemão(コンプレクソ・ド・アレマォン)」での事件を思い出す。そこはリオデジャネイロ北部にある複数のファヴェーラ(歴史的に形成された低所得者の居住区)が集まった地域であり、警察による制圧的な掃討作戦、そして虐殺ともいえる事態が行われた場所だ。 事件の翌日、私はリオデジャネイロ南部地区にあるショッピングモールを訪れ、そのあまりにも矛盾した社会の光景を目の当たりにし、胸を締めつけられる思いがした。
日本人である私は、比較的安全とされる南部地区に暮らしているため、警察によるファヴェーラでの大規模かつ制圧的な掃討作戦に直接巻き込まれることはない。しかしその一方で、多くの人々が犠牲となり、尊い命が警察の銃によって奪われている現実がある。それは、私が生きている日常とはあまりにもかけ離れていながら、同じ都市の中で確かに起きていることなのだ。
この出来事を通して私は、たとえ当事者でなくとも、起きている現実を知り、その背景にある社会問題と向き合い、理解しようとする姿勢、そして自らの意見を持つことの重要さを、改めて突きつけられた。
ブラジルは移民国家であり、植民の歴史の中で、黒人たちは長い間、奴隷制度のもとで抑圧されてきた。その歴史は過去の出来事ではなく、現在の社会構造の中にも確かに残っていることを、本作は静かに、しかし力強く伝えてくれる。

ファヴェーラにあるファッションモデル事務所で活動する若者たちの姿を追うこの作品は、彼らの戦い、挑戦、抵抗、そしてレジリエンス(回復力)を映し出している。ファッションは彼らにとって、単なる装いではなく、身に纏うことで自分自身を肯定し、存在を表現するための手段である。装いを通して少しずつ自信を得て、内面から美しく、輝いていく彼らの姿が、強く印象に残っている。
アイデンティティを探り、仲間とともに意識を深め、表現しながら生きていく。その姿を通して、この作品に、ブラジル社会の本質と、人が人として生きるための尊厳を見た。
来年でリオ生活25年目を迎える私にとって、黒人や女性、ジェンダーをめぐる人々の声や主張が確実に力を持ち始めていることを日々実感する一方で、それに対する反動としてのファシズム的な動きが広がり、社会に大きな波紋を投げかけている現実は、決して見過ごせない。
個々の人生に寄り添いながら社会構造の歪みを浮き彫りにし、人間として生きるための自己意識や社会における自らの立場を静かに問いかける、国籍を超えた作品『Favela é Moda』。日本の若者たちにも、ぜひその目で見て、心で感じてほしい。(終)
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『ファヴェーラはファッション』が観られるのは…
①劇場開催では、
1月11日(日)の15:35スタートの回
1月12日(月・祝)です!
(劇場開催では、『NOVA』との二本立て上映です)

②オンライン開催では、2026年1月16日(金)- 2月15日(日)に配信します。
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『ファヴェーラはファッション』
© 2019 ESPIRAL / OSMOSEFILMES
2019, 77分, ドキュメンタリー, 年齢制限 なし
私の色は、私の誇り──── ファッションは彼らにとって夢であり、自己表現であり、社会への抵抗の手段。
リオデジャネイロのファヴェーラで生まれたモデル養成事務所「ジャカレ・モーダ」の設立者ジュリオは、ファッションを「抵抗のかたち」と呼ぶ。それは、黒人や貧困層に向けられる差別や偏見への抵抗であり、ファヴェーラに生きる若者たちにおくられるエンパワーメントでもある。映画は、新たに選ばれた若いモデルたちが自らのアイデンティティとセクシュアリティを肯定し、内包された既存の価値観を揺さぶっていく姿を映し出す。黒人の身体を周縁化してきた社会に一石を投じるドキュメンタリー。
スタッフ
監督: エミリオ・ドミンゴス
脚本: エミリオ・ドミンゴス, シンプリシオ・ネト|
プロデューサー: レチシア・モンチ, ルーラ・ブアルキ・ヂ・オランダ
製作会社: エスピラル
共同製作会社: オズモーズィ・フィルミス
撮影: レオ・ビッテンコート
音響: ブルーノ・エスピリト・サント
編集: ジョルダナ・ベルギ
出演
ジュリオ・セーザル・シルヴァ・リマ, クラリザ・ホーザ, カミーラ・ヘイス, カイオ・ギマランイス
作品の受賞歴
リオ映画祭 2019
観客賞(最優秀ドキュメンタリー映画)
審査員特別言及
第13回 ピエール・ヴェルジェ賞最優秀長編ドキュメンタリー賞